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妊娠中期の引っ張られるような痛み|原因・対処法・注意が必要な腹痛も説明

2023.08.01

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

妊娠中期は安定期といわれています。つわりが落ち着き始める方もいる時期ですが、おなかが少し下に引っ張られるような痛みを感じる時期でもあります。

人によってはおなかの左右の片方どちらかに、チクチクしたり、キューっと感じたりする痛みを経験されるかと思います。

ここでは、妊娠中期の引っ張られるような痛みが気になる方に向けて、その特徴や原因、対処法、他に腹痛を伴う病気や症状について説明します。

妊娠中期の引っ張られるような痛みの特徴

妊娠中期に、下腹部に引っ張られるような痛みが現れることがあります。キューっとしたり、チクチクやズキズキしたりするような痛みを感じる方もいるでしょう。

下腹部以外では、左右どちらかの鼠径部(そけいぶ、足の付け根部分)や脇腹の下の方、子宮の周辺に引っ張られるような痛みが起きることがあります。

中には、立ち上がるとおなかが痛いと感じる方もいます。

妊娠中期の引っ張られるような痛みの原因

妊娠中期の引っ張られるような痛みは、円靭帯(えんじんたい)痛や牽引(けんいん)痛と呼ばれています。赤ちゃんの成長に伴って、子宮の周辺にある円靭帯という組織が引っ張られることによって現れる痛みです。

妊娠の経過によって起こる痛みなので、流産や早産とは関連のない症状です。痛みだけでなく、人によっては痙攣(けいれん)を感じることもあります。

妊娠中期の引っ張られるような痛みの対策・対処法

円靭帯痛による痛みを感じたときは安静にしておきましょう。痛みを和らげる方法として、自分の体に合った骨盤ベルトで支えたり、軽いストレッチをしたりすることが挙げられます。

また、お風呂に入って温めると痛みが軽減する場合もあります。痛みが改善しない場合は、マタニティ整体を検討してみるのもよいでしょう。また、鎮痛薬が有効な場合があります。アセトアミノフェンは妊娠中に使用できますので、主治医に相談してみましょう。

安静にしても痛みが強くなる場合や、鼠径部の痛みだけでなく下腹部の痛みが起こる場合は、他に病気が隠れている可能性もありますので、一度診察を受けた方がよいでしょう。

妊娠中期の腹痛で注意が必要なとき

円靭帯痛とは異なりますが、注意が必要な腹痛について紹介します。妊娠中期の腹痛は珍しくないことですが、以下の腹痛には注意が必要です。
このような場合はすぐに病院を受診しましょう。

  • 腟からの出血(性器出血)を伴う腹痛
  • 今までにないほど痛い腹痛
  • 規則的な間隔で起こる腹痛

これらは、切迫早産や常位胎盤早期剥離、陣痛などの可能性があります。いずれも妊娠の経過に影響が出る危険な状態といわれています。

「胎動があるなら腹痛があっても大丈夫」というお話を耳にすることがあるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りませんので、自己判断で動かない方がよいでしょう。

ここでは、切迫早産、常位胎盤早期剥離、陣痛について詳しく説明します。

切迫早産

切迫早産は、子宮口が開いて赤ちゃんが出てきそうになっている状態のことで、早産の一歩手前のような状態です。強いおなかの張り、出血、破水などの症状がある場合は早めに医師に相談しましょう。

早産とは、妊娠22週0日から36週6日までの出産のことです。症状としては、腹痛や強いおなかの張りが規則的かつ頻回におき、性器出血や子宮頚(けい)管が短くなることなどが挙げられます。

早産の一歩手前のような状態ではありますが、症状に合わせて適切な治療を受けることで妊娠を続けることが可能です。治療には、子宮収縮を抑える目的で子宮収縮抑制薬(張り止め) が使用されます。

子宮の収縮が強い場合には、入院が必要となる場合もあります。なぜなら切迫早産の治療は安静が重要になるからです。切迫早産の進行の程度によっては、絶対安静のため排泄も寝た状態で行われます。

常位胎盤早期剥離

常位胎盤早期剥離は、妊娠中に何らかの原因で胎盤が剥がれてしまう病気のことです。胎盤は妊娠中に子宮の中に作られる器官で、妊娠15週頃に完成します。

胎盤は臍帯(さいたい)という細い管(へその緒)を通じて赤ちゃんに栄養や酸素を運んでいますが、常位胎盤早期剥離が起こると胎盤が正常な位置から剥がれてしまいます。

胎盤が剥がれると赤ちゃんに栄養や酸素を運べません。また、母体の胎盤が剥がれたことによって強い持続的な腹痛や大量出血が起こる可能性があります。つまり、常位胎盤早期剥離は、赤ちゃんと母親の双方に命の危険が及ぶという、非常に注意が必要な病気なのです。

症状としては、強く持続的な下腹部の痛み、おなかの張りなど切迫早産と似ている点がありますが、腟からの出血を伴う点に注意が必要です。出血があった場合は、少量であっても常位胎盤早期剥離の可能性があるか確認することが大切です。

常位胎盤早期剥離は、持続的な痛みで発覚することもあれば、急な激痛によって発覚することもあります。

また、胎盤に関連する内容として、前置胎盤や低置胎盤についても理解しておくとよいでしょう。前置胎盤や低置胎盤は、本来なら子宮の上の方に作られるはずの胎盤が、通常よりも低い位置に作られて、出産時に赤ちゃんが通る内子宮口が胎盤で塞がれてしまう状態を指します。

腹痛は伴いませんが、急な出血(警告出血)があると前置胎盤や低置胎盤の可能性がありますので、その際も早めに医師の診察を受けましょう。

陣痛

陣痛は、赤ちゃんを体の外に押し出そうとするときに起こる、痛みを伴う子宮の収縮のことです。

陣痛には3つの種類があります。

  • 前駆陣痛:出産準備のために起こる不規則な子宮収縮
  • 本陣痛:赤ちゃんを生み出すために10分以内毎に1回、もしくは1時間に6回以上の痛みを伴う子宮収縮
  • 後陣痛:出産後に子宮のサイズを戻すために起こる子宮収縮

妊娠中期に起こる陣痛は前駆陣痛であることが多いでしょう。
この前駆陣痛はブラクストン・ヒックス収縮とも呼ばれており、基本的には本陣痛にはつながりません。しかし、頻回となる場合には、破水の危険もあるため、早めに医師の診察をおすすめします。

前駆陣痛は、子宮の下部分を広げて子宮頸管を柔らかくさせる働きがあり、不規則な陣痛が起こることが特徴です。一定の間隔で陣痛が起こる場合は本陣痛の可能性がありますので、陣痛の間隔を把握しておくことが大切です。

妊娠中期の腹痛と他の病気との関連

妊娠中期の腹痛には円靭帯痛以外に、下痢や便秘による腹痛も多くあります。下痢や便秘の原因には、ホルモンバランスの変化によって胃腸の機能が低下することや、大きくなった子宮に他の臓器が圧迫されることが挙げられます。

また、下痢に伴って嘔吐(おうと)もある場合は、感染性腸炎が疑われるため注意が必要です。

ここでは「腹痛と別の症状が一緒に出ていると他の病気と関連しているかも……?」と不安になっている方のため、妊娠中期に見られる腹痛以外の病気や症状も紹介しておきます。

  • 貧血
  • 高血圧
  • おりものの増加
  • 便秘
  • 痔(じ)
  • 頻尿
  • 動悸(どうき)
  • 息切れ
  • 皮膚のかゆみ
  • 腰痛
  • 逆流性食道炎
  • 虫垂炎(盲腸)
  • 腎結石
  • 尿管結石

ホルモンバランスの変化や、子宮が大きくなって他の臓器が圧迫されることなど、妊娠に伴う症状が多いため、腹痛と同時に起こっていても心配し過ぎる必要はない場合が多いでしょう。

しかし、おなかの張りや痛みは、盲腸として知られる虫垂炎や、大きくなった子宮が腎臓を圧迫することによる腎結石が原因である可能性もあるため、注意が必要です。

虫垂炎は子宮収縮の痛みと似ていたり、妊娠前よりも上の位置にあったりするため、判断が難しい場合があります。おなかの右下辺りや、みぞおちからおへそ辺りの痛み、6時間以上続く腹痛・吐き気・嘔吐が特徴です。
また、虫垂炎は判断・診断が遅れてしまうと、早産や死産などの危険もあり、非常に重要な疾患です。そのため、早めに医師の診察が必要です。

まとめ

妊娠中期の引っ張られるような痛みについて説明しました。引っ張られるような痛みは、おなかの赤ちゃんの成長に伴って大きくなった子宮とその周辺にある円靭帯が伸びるときの痛みです。

引っ張られるような痛みは、妊娠の経過において自然と起こる症状です。痛みを和らげる方法は多くありませんが、まずは安静にして、ストレッチやお風呂など、できる範囲で対策をしてみましょう。安静にしていても痛みがひどくなる場合はかかりつけの医師に連絡してください。

また、円靭帯痛とは異なりますが、危険な腹痛の特徴についても説明しました。
万が一に備えて、切迫早産や常位胎盤早期剥離、陣痛、他の病気についても、赤ちゃんとご自分のために理解しておいてくださいね。

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

プロフィール

2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。