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【妊娠後期】体重増加の理由や対策・注意が必要な場合・管理のコツについて説明

2023.10.19

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

いよいよ赤ちゃんと出会える瞬間が近い妊娠後期。おなかもかなり大きくなってきて、エネルギーや栄養が必要な時期なのもわかりますが、「それにしても体重の増加が気になる」という方も多いかと思います。今回は妊娠後期の体重増加が気になる方に向けて、その理由や増加してもよい目安、体重管理のコツや対策から、注意が必要なことなどについて説明します。

妊娠後期の体重が増加する理由

体重が増加する理由を、ここでは大きく3つに分けて説明します。

お産への準備

体重増加の原因の1つ目は、お産の準備によるものです。

赤ちゃんを守るために皮下脂肪が付くことや、お産に備えて血液量が1~1.5kgほど多くなること、また、産後の母乳のためにエネルギーを蓄えることなど、生理的な変化によって体重の増加が起こります。

具体的には以下のような重さが加わり、合計で約10kg超の体重増加につながります。

・全身の血液量増加…約1~1.5kg
・赤ちゃんの体重…約3㎏
・羊水…約500~800g
・胎盤…約500~700g
・乳房や子宮などが大きくなる…約1.5㎏
・母体の脂肪…約2~3㎏

活動量の低下と食事量の増加

2つ目の理由は、活動量の低下と食事量の増加です。

赤ちゃんが大きくなって以前よりも動きにくくなったにもかかわらず、食欲は以前よりも増え、これが体重の増加に影響することになります。

運動量については、産休に入って通勤がなくなった場合や、どうしても体調がすぐれなくて動けないといった理由で体を動かす機会が減る場合が多いと思います。

また、後期つわり で食べるのが気持ち悪くなる方もいれば、何か食べていないと気持ち悪くなる方(食べづわり)もいます。

体重を気にしすぎたストレスによって、体内の代謝が悪くなったり、過食になったりすることも原因として考えられます。

むくみ(浮腫)

体重増加の3つ目の理由はむくみ(浮腫)です。妊娠中期ごろからむくみが出現するお母さんがいますが、妊娠後期もむくんでつらい方もいるでしょう。

むくみはホルモンバランスの変化、血液量の増加、冷えなどによって起こることもありますが、妊娠後期の方は妊娠高血圧症候群がむくみの原因となっている場合もあります。むくみがある場合はかかりつけ医に相談することが重要です。

体重が増加してもよい範囲

妊娠によって体重が増加することは自然なことであり、もし体重の増加量が少な過ぎたり、多過ぎたりすると赤ちゃんの健康に影響が出ることもあります。

妊娠後の体重増加の目安量は、「妊産婦のための食生活指針」により妊娠前の体格別に目安が発表されていました(※1)が、以前の策定から15年が経って健康や食生活の環境が変わったことから 、2021年からは「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」に改訂 されました。

現在では、以下の重さを目安に体重増加をしていくこと、また、この通りに増加しなくても個人差を考慮して緩やかに管理することが大切とされています(※2)。

・低体重(BMI(※3)が18.5未満)…12~15kg
・普通体重(BMIが18.5~25未満)…10~13kg
・肥満1度(BMIが25~30未満)…7~10kg
・肥満2度(BMIが30以上)…個別対応(上限5kgが目安)

BMI(Body Mass Index)は肥満度を表す国際的な体格指数のことであり、「体重(kg)÷身長(m)の2乗」によって計算することができます。

例:体重53kgで身長161cmの場合…普通体重
53÷(1.61×1.61)=53÷2.5921≒20.4

また、妊娠中期以降の1週間単位の増加量目安については、厚生労働省の「体格区分別 妊娠中期から末期における1週間あたりの推奨体重増加量(※3)」によると以下の通りになっています。

・低体重(BMIが18.5未満)…0.3~0.5kg/週
・普通体重(BMIが18.5~25未満)…0.3~0.5kg/週
・肥満(BMIが25以上)…個別対応

妊娠後期で赤ちゃんが育つのに必要な栄養素などはさまざまありますが、カロリーだけに焦点を当てると毎日450kcal ほどを通常より多く摂ることでよいとされています。

※1参照元:体格区分別 妊娠全期間を通しての推奨体重増加 量(p.63)
※2参照元:「妊産婦のための食生活指針」改定の概要(2021年3月)
※3参照元:体格区分別 妊娠中期から末期における1週間あたりの推奨体重増加量(p.63)

妊娠中の体重増加曲線

九州大学と国立成育医療研究センターの研究により、10万人の妊婦健診情報から、「妊娠中の体重増加の目安」が学術論文として2023年に発表されています。

今まで、妊娠に伴う体重の増加量に関係する研究結果や目安などが発表されてきましたが、妊娠何週でどのくらいの増加量が望ましいかまではわかりませんでした。

今回の研究により、BMI指数に応じた体重増加の目安が曲線で表されることになり、体重管理に役立つことが期待されています。

増加曲線の表は、以下のページからPDFでダウンロードすることが可能です。

参照元:10万人の妊婦健診情報から「妊娠中の体重増加曲線」を作成 妊娠中の体重管理の参考になることを期待(成育医療研究センター)

体重管理のコツ・対策

体重管理のコツやコントロールのための、食事量や食べ方、運動について説明するとともに、水を飲むことなどがむくみ対策になることも触れていきます。

食事

食事面では、これらのことがよい対策になるでしょう。

・朝ごはんを食べる
・食事を減らし過ぎない
・野菜を多く食べる
・油物を避けてあっさりした味つけにする
・間食ではカロリーが少なく栄養を摂りやすいものを選ぶ
・常飲するものは水やお茶を選ぶ
・食欲が多いときはガムやカロリーの低いものを食べる
・水分を摂る
・食事の時間をゆっくり取ってよく噛んで食べる
・寝る前に食べない
・腹八分目を心がける

朝ごはんを食べることで、体がエネルギーを消費しやすくなります。また、食べる量を減らすことでより空腹を感じて、むしろ食べ過ぎてしまうこともあるでしょう。

妊婦さんの中には、けんちん汁やミネストローネ、きんぴら、なすの煮浸し、豆腐ハンバーグなど、野菜をたくさん食べたり、うまく活用したレシピを作ったりして、栄養補給と満腹感を両立している方もいます。

反対に、脂っこい食事や甘いジュース、外食などはカロリーが高い傾向にあるため、摂り過ぎないように注意が必要です。

どうしても食欲が抑えられない場合は、ヨーグルトや果物、ナッツなどのカロリーが抑えめで栄養素も摂りやすいものや、気分転換にもなるガムなどを口にするとよいでしょう。

果物は、葉酸を摂りやすいイチゴ・ライチ・グレープフルーツなど、カリウムやビタミンが摂りやすいバナナ・キウイなどがおすすめです。アボカドには葉酸やカリウム、ビタミンなどが含まれています。

ただし、メロンやマンゴーなどの水分量が多いもの、バナナや柿などのカロリーが多い高い ものはを摂り過ぎないよう、に注意が必要です。

お薬の中には、グレープフルーツと飲み合わせが悪いものもありますので、服用している薬がある方はかかりつけ医に相談しておきましょう。

むくみが気になる方は、水分やカリウムを摂ること、塩分は控えることがむくみ解消につながります。 また、適宜主治医の先生と報告・相談も重要です。

運動

妊娠後期にできる運動としては、以下のようなことが挙げられます。

・少し汗をかくくらいのウォーキング
・ゆっくり散歩
・マタニティティヨガ
・ラジオ体操
・家の中の掃除
・ストレッチ

ウォーキングは妊娠後期の方でも始めやすい運動といえるでしょう。少し汗をかくくらいで、無理のない範囲で試してみましょう。

マタニティヨガはストレッチや深呼吸、瞑想などの要素が含まれています。運動としても安全で、リラックスや血液の循環をよくする効果も期待できます。

あまり運動する気になれない方は、家事や掃除、軽いストレッチをすることもおすすめです。運動量が低下しがちな方は、日頃よりも10分以上動くことを心がけるとよいでしょう。

また、しない方がよい運動は、以下の通りです。

・転ぶ危険があるもの
・人とぶつかるもの
・落ちる危険があるもの

サッカーやバスケットボール、ボルダリング、クライミング、スキューバダイビング、平均台などは避けておきましょう。

体重の増加に伴って注意が必要なこと

体重増加に関連することで注意が必要なことは、以下の通りです。

・急激な増減
・妊娠高血圧症候群
・妊娠糖尿病
・膝痛
・腰痛
・お産のときに赤ちゃんが降りづらくなる
・陣痛がうまく起こらず出産が長引く
・産後に高血圧や腎臓病が起こる

妊娠に伴う体重の増加は徐々に起こることがよいと考えられています。つい食べ過ぎてしまうこともありますが、それをきっかけに翌日は全く食べないといった対策はやめておきましょう。

体重が増加し過ぎると、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病になるリスクがあります。妊娠高血圧症候群によってさまざまな症状が現れますが、その一つに胎盤の機能低下により赤ちゃんに栄養や酸素が運ばれにくくなることがあり、未熟児や早産の原因になる場合があります。

逆に痩せてしまうことにも注意

妊娠で体重が増加する方もいると同時に、反対に痩せてしまう方もいるでしょう。中には食べているのに体重が減少する方もいるかもしれません。

お母さんが妊娠中に痩せ過ぎてしまうと、赤ちゃんが飢餓状態でも栄養を取り込みやすいように体質を変化させ、少量の食事でも栄養や脂肪を取り込みやすくなることから、出生後は生活習慣病になりやすいことがわかっています。

また、痩せ過ぎていると赤ちゃんが2,500g未満の低体重で生まれやすく、統合失調症や慢性呼吸器疾患、女性であれば将来的に妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群になりやすいこともわかっています。

痩せ気味は早産や流産のリスクを上げる原因の一つです。しかし、すでに食事をちゃんと取っている方は無理に増やす必要はなく、必要な栄養素を摂ることが推奨されています。

まとめ

妊娠後期の体重増加は、妊娠への準備やホルモンバランスの変化などによって起こる、自然な現象です。

そのため、大切なことは、体重が急激に増減しないように管理することや、どうしても食欲が抑えられないときの対策にあるといえるでしょう。

対策には食事と運動からのアプローチがあります。今回ご紹介した方法で、無理なく取り組めるものから試してみてくださいね。

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

プロフィール

2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。