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妊娠後期にだるい・無気力...。特徴・原因・対策などを説明

2023.10.25

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

「体が重くてだるい…」「仕事に行きたくないくらいにつらい」。妊娠後期になって無気力やだるさに耐えられないという妊婦さんは多いのではないでしょうか。体調のマイナートラブルが増えて、仕事をされている方であれば、仕事を休む理由や頻度が気になる方もいることでしょう。ここでは妊娠後期のだるさや無気力の原因や対策、注意が必要なときについて説明します。

妊娠後期のだるさ・無気力の特徴

妊娠後期にはさまざまな不調が理由でだるさや無気力に襲われる方がいます。単純な倦怠感だけでなく、以下のような症状から無気力を感じる方がいるでしょう。

・腰痛
・便秘
・足がつる(こむら返り)
・胸焼け
・イライラ
・背中の痛み
・不安
・頻尿

妊娠後期のだるさ・無気力の原因

では妊娠後期のだるさや無気力の原因はどのようなことが挙げられるのでしょうか。ここではホルモンの影響、貧血、むくみに焦点を当てて説明します。

ホルモンの影響や赤ちゃんの成長

妊娠によって分泌されるホルモンや、成長して大きくなった赤ちゃんが原因でだるさや倦怠感が起こる場合があります。

妊娠によって分泌が増えるホルモンの一つが黄体ホルモンのプロゲステロン です。妊娠初期に分泌が増えて体温を上げたり、妊娠を維持しやすい環境を整えたりするために必要ですが、人によっては妊娠中期から妊娠後期まで体温が下がらない方もいます。

平熱が普段よりも高い状態だと体力が奪われやすいため、体温によって倦怠感に悩まされる方もいるかもしれません。

また、妊娠後期では赤ちゃんが大きくなったことでおなかが重くなったり、動くのがおっくうになったりすることも考えられます。

赤ちゃんに合わせて子宮も大きくなりますので、胃腸や膀胱などの臓器が圧迫されて胸焼けや便秘、頻尿などの不調を感じて、だるさにつながることも考えられます。

貧血

貧血は妊娠中のどの期間でも出現する可能性のある症状の一つです。貧血は、体のだるさや無気力だけでなく、めまいや立ちくらみ、眠気などの原因にもなるでしょう。

妊娠中は赤ちゃんと妊婦さんの両方に酸素や栄養が届かないといけないため、妊娠していないときよりも血流量が多くなります。

血液の総量が増えますが、血液中で酸素や栄養などを運ぶ赤血球の増産 が追いつかないことから貧血が起こることもあります。

女性は貧血になりやすいことから貧血の症状を軽く見てしまう方がいるかもしれませんが、妊娠中の貧血は倦怠感だけでなく、早産や赤ちゃんの低体重に関係する場合もあるため、適切な加療・治療することが大切です。

むくみ

妊娠中はむくみによるだるさや無気力に悩まされる方も少なくありません。妊娠後期では大きくなった子宮が血管を圧迫することで血流が悪くなり、細胞間で栄養や老廃物の運搬を行っている水分が滞り、むくみが生じると考えられています。

また、出産時の出血に備えるために体の水分量が増えてむくみやすくなるとも考えられています。運動不足やストレスがむくみの原因となる場合もあるでしょう。むくみが生じやすい傾向にある部位は手足や顔など、心臓から遠い場所となっています。

妊娠後期のだるさ・無気力の対策

妊娠後期のだるさや無気力の対策について説明します。倦怠感でつらいときは無理をしないことや、貧血とむくみ対策に焦点を当てていきます。

家族やサービスを頼る

家族や家事代行サービスなどを頼ることを考えてみることが対策の一つです。妊娠中でだるさや無気力を感じる中で家事をしなければいけない状態は本当につらいものです。

全部自分でしようとすると更に気が重くなってしまうため、思い切って家族や友人・知人を頼ってみたり、相談をしたりしてみてはいかがでしょうか。

お住まいの地域によっては行政を経由すると安い値段で家事代行を頼める場合もありますので、一度は行政のサポート内容を確認してみるのもよいでしょう。

旦那さんといったパートナー に頼むときに「洗い物をお願いしたい」「洗濯物を取り込んでほしい」など、お願いしたいことを具体的に伝えることや、感謝の言葉を伝えることでスムーズに頼れるかもしれません。

また、掃除では自動式の掃除機や、水で流すだけで完結する浴槽洗剤など、便利なグッズを活用することもできます。

食事であれば栄養価の高いレトルト食品や宅配サービスなどを利用するのも対策になるでしょう。普段とは違う生活を楽しむきっかけにもなるので、可能な範囲で検討してみてはいかがでしょうか 。

貧血対策

貧血には鉄欠乏性貧血と葉酸欠乏性貧血があります。
鉄分であれば、豚レバー・鶏レバー・牛の赤み肉・しじみ・あさり・ほうれん草・卵黄・大豆など、葉酸であれば鶏レバー・ブロッコリー・アスパラガス・イチゴ・ほうれん草などから摂取することが可能です。それぞれ不足がないように摂取しておきましょう。

ただし、レバーにはビタミンAが入っているため、取り過ぎないように注意 が必要です。牛レバーなら1日30g程度、鶏や豚レバーなら週に1~2回30g程度 を目安に摂取すると心配はないと考えられています。

また、カフェインの摂取によっても貧血が起こりやすくなります 。胃が荒れる原因にもなりますので、緑茶やコーヒー、紅茶などの摂取は可能な限り控えておいた方がよいでしょう。

むくみ対策

むくみ対策には以下の方法が挙げられます。共通することは、下半身や手足で血流を悪くしない・滞らないようにすることや、冷え対策をすることがポイントと言えるでしょう。

・長時間にわたって立ったまま、または座ったままにならない
・横になる際は足を高い位置にして休む
・足をマッサージする
・ストレッチをする
・軽いウォーキングをする
・着圧ソックスを使う
・湯船で体を温める
・カリウムが含まれた食品を取る
・衣類は締め付けの少ないものを選ぶ

妊婦さんの体が冷えると、赤ちゃんが温かい場所を求めて逆子になるリスクや、栄養が行き渡りにくくなって早産になるリスクが上がります。免疫力の低下にもつながりますので、温かい状態を保つ方がよいでしょう。

注意が必要なだるさ・無気力

妊娠後期はマイナートラブルなどでだるさや無気力を感じやすいものですが、中には注意が必要な場合もあります。

ここでは、妊娠高血圧症候群や発熱を伴う場合、出産が近いと考えられる場合について説明します。

妊娠高血圧症候群

だるさだけでなく、動悸・息切れ・手足の痺れ・頭が重い・頭痛・のぼせ・ほてり・目がチカチカするなどの症状がある場合は、妊娠高血圧症候群の可能性があるかもしれません。

合併症には子癇(けいれん)発作・妊娠高血圧腎症・HELLP症候群・常位胎盤早期剥離・胎児発育不全・胎児機能不全など、いずれも注意が必要なものが挙げられます。

子癇は妊娠20週以降に初めてけいれん発作が起こることで、てんかんとの区別がされます。 子癇が治らない場合は、赤ちゃんだけでなく妊婦さんの命にも危険が及ぶことがあり、状態が良くない場合には早期の出産が必要になる場合もあるでしょう。

子癇発作が原因で脳出血を起こす可能性や、前兆として目がチカチカしたり、頭痛を感じたりすることもあります。

高血圧だけでなく尿蛋白が見られると、妊娠高血圧腎症の場合が考えられるでしょう。重度の頭痛・視野障害・呼吸困難・吐き気・尿量の減少 などが伴うと妊娠高血圧腎症の疑いがあります。

HELLP症候群は赤血球の破壊・肝臓機能の低下・血小板の減少が起こる病気です。みぞおちから右肋骨下部の痛みや吐き気を伴うことがあります。

常位胎盤早期剥離は出産前に胎盤が剥がれてしまうことです。赤ちゃんと妊婦さんの命に危険が及ぶ場合もあるため、性器出血や非常に強い腹痛、腹部が異常に硬くなる(板状硬)などの症状がある場合は、すぐにかかりつけ医に相談しましょう。

胎児発育不全・胎児機能不全は、妊娠高血圧症候群が重症のときに血流が悪くなって赤ちゃんが育ちにくくなることです。胎動が少ない、胎児の心拍に異常が起こるなどの場合は注意が必要です。

発熱

だるさや無気力と同時に発熱を伴う場合は、何らかの感染症が隠れている場合があります。鼻水や咳などがあれば風邪・インフルエンザ・新型コロナウイルスの疑いがあるでしょう。

似た症状を持つもので蚊を媒介するものにジカ熱・デング熱、他にはリンパ節が腫れる風疹、中耳炎や肺炎も伴う麻疹、背中の痛みや排尿時の違和感を伴う急性腎盂腎炎、みぞおちの痛みや吐き気を伴う虫垂炎なども挙げられます。

妊娠後期で平熱が37度近くになる方は多くいますが、発熱やだるさ以外にも症状が見られる場合は注意が必要です。

出産が近い

出産が近づくことによって無気力やだるさを感じている場合もあります。兆候としては以下のことが挙げられます。お産が近づくとホルモンバランスが変化して便通などに影響が出る場合があるでしょう。

・おなかの膨らみの位置が下がる
・大きな胎動が少なくなる
・便通が良くなる
・便秘になる
・下痢になる
・胃がすっきりして食欲を感じる
・頻尿になる
・残尿感がある
・おりものが増える

また兆候とは違って、お産のサインとして捉えられるものがこちらです。これらの症状が見られると、数日後に出産が起こってもおかしくないと考えておきましょう。

・前駆陣痛(不規則的なおなかの張り)
・本陣痛(規則的なおなかの張り)
・おしるし(ピンク色の少量出血)
・破水

まとめ

妊娠後期のだるさや無気力は、ホルモンバランスの変化や貧血、むくみなどが関係している場合が多いでしょう。多くの妊婦さんが経験することであり、妊娠に伴って起こりやすいことなので心配しすぎる必要はありませんが、適切に対処することは大切です。

妊娠高血圧症候群や発熱、出産の兆候に当てはまる症状が見られた場合は注意が必要か、すぐにかかりつけ医に伝える必要がありますので、こちらも留意して過ごしてくださいね。

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

プロフィール

2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。