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【妊娠後期の吐き気】気持ち悪いのは後期つわり...?原因・対策を説明

2023.10.04

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

「前はなかったのに、お茶を飲んだら吐き気がする」「吐き気以外にも胃痛や胸焼けもある」。妊娠後期のふんばりどきとはいえ、吐き気やそれ以外の症状、後期つわりと呼ばれているもので苦しい思いをされているお母さんも多いのではないでしょうか。ここでは、妊娠後期の吐き気に注目して、その特徴や原因、対処法、注意が必要な症状について説明していきます。

妊娠後期の吐き気の症状

妊娠後期で吐き気を感じる方は少なくありません。急な吐き気を感じる方や、何か特定の飲み物や食べ物を口にしたときに吐き気を感じる方もいます。吐き気だけでなく、胸焼けや動悸、胃痛、ゲップ、下痢などを伴うこともあるでしょう。

妊娠後期に見られるつわりのような症状であることから、後期つわりと呼ばれることもあります。これによって、痩せてしまうお母さんや気持ち悪いことが理由で眠れないお母さんもいるでしょう。

また、妊娠の準備のために母体内の血液量が増えるのですが、血液中で酸素を運んでいる赤血球の増加が追いつかなくて貧血になる方もいます。貧血に伴ってめまいや吐き気を感じる場合もあるでしょう。

妊娠後期の吐き気の原因

妊娠後期の吐き気は、子宮が大きくなることによって起こる胃の圧迫や、妊娠に伴うホルモン分泌の変化、また、出産に対する精神的なストレスなどが挙げられます。

ここでは以上の原因に加えて、前駆陣痛や胎動による吐き気についても説明します。

子宮による胃の圧迫

大きくなった子宮が胃や腸を圧迫すると、消化機能が低下し吐き気を感じる原因になることがあります。

胃が持ち上がった状態になったり、消化機能の低下で食べたものが消化されずに胃腸に止まり続けたりすることなどが、吐き気などの気持ち悪さにつながるでしょう。

ホルモン分泌の影響

妊娠によって分泌量が増えたプロゲステロンにより消化器官の働きが弱くなって、吐き気や下痢が起こると考えられています。

食道と胃の境目には下部食道括約筋が存在しており、胃酸が逆流を防ぐ弁のような役割をしていますが、プロゲステロンの影響により下部食道括約筋が緩むと、胃酸が食道に逆流しやすくなります。このように、逆流性食道炎になりやすい状態になることから、吐き気や胸焼けにつながるでしょう。

ストレス

出産に対するプレッシャーや妊婦の生活に慣れないことによってストレスを感じると、神経性胃炎になるお母さんもいます。

神経性胃炎は、睡眠不足や疲労など体の不調がストレスとなって自律神経が乱れることで起こる病気です。胃酸が過剰に分泌されるため、吐き気以外にも胃の痛みや胸焼け、喉のつかえを感じることがあるでしょう。

前駆陣痛

臨月(36~40週未満)に差しかかった方は、本陣痛よりも早い段階で起こる前駆陣痛を経験される場合があるでしょう。

前駆陣痛は出産に向けて体が準備をしているようなもので、不規則に子宮の収縮が起こることから腹痛(生理痛に似た痛み)を感じることが多いようです。

腹痛以外では頭痛や胃痛、胸焼けだけでなく、吐き気を感じる場合があります。

胎動

胎動による腹腔内臓器(特に胃腸)への刺激が吐き気の原因になることもあります。

赤ちゃんが大きくなって元気な証拠でもありますが、おなかの中で動き回っていることから気持ち悪さや消化不良、胸焼けなどを感じることにつながるでしょう。

妊娠後期の吐き気の対策

続いて、妊娠後期の吐き気対策をお伝えします。主に、食事の取り方や普段の過ごし方についてご紹介しますので、取り入れやすいものから試してみてください。

食事を1日5~6回に分ける

一度に多く食べることは、胃酸の分泌量の増加につながり、胃への刺激や負担になりやすいものです。1回当たりの食事量を少なくして、食事の回数を1日5~6回に増やすとよいでしょう。

満腹になると食べ物が消化されにくく吐き気につながるので避けたいところですが、空腹の状態が続いても吐き気の原因になる場合があります。おなかの中に適度に食べ物が入っている状態をキープするとよいでしょう。

また、食後はあめやガムでリフレッシュできたり、気持ち悪さを軽減できたりする場合もあります。

飲み物の種類や温度に注意する

飲み物は常温の水や白湯がよいでしょう。冷たい飲み物を多く飲むと胃腸の負担につながります。食べ物の消化を考えて、食前の30分と食後の数時間は水分の摂取が過剰にならないように注意しましょう。

リフレッシュのためにもジュースや炭酸飲料を飲むことはよいのですが、取り過ぎには注意が必要です。ジュースは糖分が多く、炭酸飲料は胃腸が膨らむので、気持ち悪さを感じる原因になる場合があります。

消化に良いものを選ぶ

食べ物は消化しやすいものや胃粘膜の保護に役立つものを選ぶことが大切です。反対に、消化に悪いものは避けておきましょう。

消化しやすいものは、うどん・おかゆ・鶏肉など脂の少ない肉・白身魚・豆腐・卵・じゃがいも・大根などが挙げられます。

消化に悪いものは、油分が多いもの・キノコ・ゴボウ・梨・ベーコン・ソーセージなどがあります。

香辛料などの辛いものや柑橘類、梅干し、冷たいものは胃の刺激になるため、控えておいた方がよいでしょう。納豆、オクラ、温かい牛乳などは胃粘膜の保護に役立ちます。

寝る姿勢を工夫する

胃腸の調子が良くないときは体の左側を下にして寝るシムス位だと楽に感じる場合があります。胃の形状的に、左側を下にすることで胃酸が逆流しにくいと考えられています。

また、食後は胃酸の分泌が多くなります。すぐに横になると食道に逆流して気持ち悪くなることが考えられますので、食後はクッションなどにもたれるようにして休みましょう。寝ている間は食べ物が消化されないため、食後3時間ほどは就寝しないことも大切です。

姿勢は仰向けだと苦しく感じる方が多いようですが、左側を下にすれば必ずしも楽に感じるとは限りませんので、自分が楽だと感じるものを選んでください。

温かいものや冷たいものを取る

体が温まると胃腸の働きが良くなることがあるため、足湯をすることや温かい飲み物を飲むこと、カイロを使うことなどによって吐き気が楽になることがあります。

また、人によっては冷たいものを取ると吐き気が治る場合もありますので、自分がどちらのタイプなのかを把握しておきましょう。

無理をせずに休む

どうしても吐き気がつらいときは、無理をせずに休みましょう。妊娠中はお母さんと赤ちゃんが健康であることや、安らげているかどうかが大切です。

また、吐き気以外につらい症状がある方も多いかと思います。つらくても家事があるときは、代行サービスを利用したり、配偶者をはじめとする家族に相談したりして、無理をせずに過ごしてみてくださいね。

ゆとりのある服を着る

足全体や骨盤周りを締めつける服装など、おなかを圧迫することで張りや子宮収縮につながる場合があります。人混みや満員電車などの圧迫されやすい場所もできるだけ避けておいた方がよいでしょう。

リフレッシュを心がける

ストレスがたまると胃酸の分泌が多くなり、吐き気を感じる原因になる場合があります。

散歩をしたり、産後の楽しみを考えたり、音楽などの趣味に触れたりしましょう。お風呂に入れる方は半身浴なども取り入れて、うまくリフレッシュしましょう。

注意が必要なとき

妊娠後期で吐き気を感じるときに注意が必要なのは、以下のような状態のときです。

・胃が痛いとき
・薬を服用したいとき
・妊娠高血圧症候群があるとき
・吐き気が強いとき
・逆流性食道炎や食中毒かもしれないとき

胃が痛いとき

吐き気というよりも、胃が痛いときには別の病気が隠れている場合もあります。あまりにも胃の痛みが強く、改善傾向がないときはかかりつけ医に相談しましょう。

みぞおちあたりが痛む場合は、妊娠高血圧症候群によって合併しやすい子癇(しかん)やHELLP症候群 の場合もあります。

子癇は強い頭痛や目が見えないなどの視野障害、または花火が散るような見え方(眼華閃発 /がんかせんはつ )をすることがあり、HELLP症候群では右季肋部痛 ・黄疸・動悸・息切れ・せき・褐色尿などを伴うことがわかっています。

一見、妊娠とは関連がなさそうに見える症状を伴いますので、これらの症状がある場合もかかりつけ医に相談しましょう。

薬を服用したいとき

吐き気や胸焼けなどに対処したくてお薬を飲みたいときもあるかもしれません。この場合はかかりつけ医に相談して、処方されたものを服用しましょう。

自己判断で市販薬を飲むと思わぬ症状につながる危険性もあるため、注意が必要です。

妊娠高血圧症候群があるとき

吐き気の原因が妊娠高血圧症候群 (HDP)によるものだった場合は、合併症に注意をしておいた方がよいでしょう。

妊娠高血圧症候群の合併症には子癇・妊娠高血圧腎症 ・HELLP症候群・常位胎盤早期剥離・胎児発育不全・胎児機能不全が挙げられます。

子癇は妊娠20週以降に初めてけいれん発作が起こり、てんかんが否定されるものになります。子癇が治らない場合は赤ちゃんだけでなくお母さんの命にも危険が及ぶことがあります。状態が良くない場合には、できるだけ早く赤ちゃんをおなかから出してあげることが必要になるでしょう。この子癇発作が原因で脳出血を来す可能性もあります。脳出血でも吐き気の原因になることがあります。

高血圧だけでなく尿蛋白が見られることもあり、この場合は妊娠高血圧腎症と呼ばれます。妊娠高血圧腎症でも吐き気が伴うことがあります。

HELLP症候群は赤血球の破壊、肝臓機能の低下、血小板の減少が起こります。みぞおちから右季肋部の痛みや吐き気を伴う疾患です。

常位胎盤早期剥離とは出産前に胎盤が剥がれてしまうことです。赤ちゃんとお母さんの命に危険が及ぶ場合もあるため、性器からの出血や腹部が異常に硬く(板状硬)なり、非常に強い腹痛などの症状がある場合はすぐにかかりつけ医に相談しましょう。

胎児発育不全・胎児機能不全は、妊娠高血圧症候群が重症のときに血流が悪くなって赤ちゃんが育ちにくくなることです。胎動が少ない 、胎児の心拍に異常が起こるなどの場合は注意が必要です。

吐き気が強いとき

吐き気や胸焼けなどがいつもより強いときや、長く続く場合はかかりつけ医に相談しましょう。

妊娠高血圧症候群に関連する別の病気などが隠れている場合も考えられます。赤ちゃんとお母さんの健康が大切なので、吐き気に限らず、「先生に迷惑かな…」などとは考えずに、つらいときは病院を頼ってくださいね。

逆流性食道炎や食中毒かもしれないとき

胃酸が上がってきて気持ち悪いときや喉やけがするときは、逆流性食道炎の場合があります。また、吐いてしまったり、じんましんや熱が出たり、腹痛や倦怠感があったりするときは食中毒やウイルス性の腸炎の場合もあります。

普段から食事に気をつけているお母さんが多いかと思いますが、季節によっては食べ物が知らない間に痛んでいることもありますので、これらの症状が見られるときはすぐにかかりつけ医に相談しましょう。

臨月の方の過ごし方

妊娠後期の方の中でも臨月に差しかかっている場合は、いつもより無理しないように過ごしましょう。

具体的には、重たいものを持つことや大変な作業・仕事を避けること、おなかを圧迫する動作や服を着ないこと、長時間の外出を控えておくこと、また、車や自転車の運転を避けて、陣痛にも備えておくことが大切です。

臨月はいよいよ赤ちゃんをお迎えするときです。赤ちゃんのためにも、ご自分のためにも、できる限りの準備をしておいてくださいね。

まとめ

妊娠後期の吐き気といっても、ホルモン分泌の変化によるものや、出産に関係するものなど、いくつかの原因があります。

多くは妊娠が順調に進んでいるからこそ起こりうるものですが、中には妊娠高血圧症候群や逆流性食道炎、食中毒などに関連している場合もあります。

今回ご紹介した対処法の中で役に立つものがあれば幸いですが、ご自分のためにも、赤ちゃんのためにも、気になる症状はかかりつけの先生に相談してくださいね。

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

プロフィール

2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。