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【産後の子宮の痛み】後陣痛とは?痛みの原因・対策などを解説

2024.01.25

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

「産後すぐに子宮が痛い」
「生理痛のような痛みを感じる…」

出産後、子宮が痛いと感じるお母さんたちは多くいます。後陣痛という言葉を聞いたことはあっても、意外と詳しくは知らないという方もいるのではないでしょうか。

ここでは、産後の子宮の痛みや後陣痛、その原因や対処法、注意が必要なときについて説明します。

産後に起こる子宮の痛みの特徴

産後に起こる子宮の痛みの特徴について、ここでは後陣痛や、悪露が排出されるときの痛みについて解説します。

後陣痛

後陣痛(こうじんつう)は、妊娠や出産によって大きくなった子宮が元の大きさに戻るときに感じる痛みのことです。後腹(あとばら)と呼ばれることもあります。

産後2日〜3日あたりに感じやすいものですが、その後は徐々に治まり、退院する頃には落ち着いていることが多いでしょう。初産婦さんは、経産婦さんよりも少し長いこともあります。 また、一般的に経産婦さんの方が痛みを強く感じることが多いです。

痛みの程度は、妊娠中の陣痛よりも軽度だったり、生理痛に近い痛み、もしくは出産時の痛みを思い出すほどに痛んだりと、人によってさまざまだといわれています。

痛み自体は生理的に起こるものなので、特別に治療を行う必要は基本的にないと考えられていますが、あまりにもひどい場合は鎮痛剤が使用されることもあります。

悪露

悪露(おろ)は、産後に胎盤や卵膜が剥がれたところから発生した出血や、子宮にたまっていた血液、分泌物、粘液などが混ざったものです。胎盤のかけらや卵膜などが含まれることもあるでしょう。

出始めた頃は血液に近い色をしていますが、徐々にピンク色や褐色になり、最終的には黄色や白色に近づき、産後1カ月から2カ月ほど続くことが多いです。産後は、悪露が排出されるときに子宮に痛み(後陣痛)を感じることがあります。

産後に起こる子宮の痛みの原因

続いて、産後に起こる子宮の痛みの原因について説明します。
ここでは後陣痛と授乳による子宮収縮、子宮周辺に起こる痛みに焦点を当てていきます。

子宮復古による後陣痛

子宮が元に戻ることを子宮復古といい、それに伴う痛みとして後陣痛が知られています。妊娠前の子宮のサイズと妊娠中の子宮の大きさには何倍もの差があると言われているため、元のサイズに戻ろうとするときに痛みを感じるのはごく自然なことだといえるでしょう。

授乳による子宮の収縮

授乳によって乳頭への刺激があると子宮収縮が引き起こされるため、これにより子宮に痛みを感じる場合があります。授乳により、乳頭刺激があると乳汁分泌に関係するオキシトシンというホルモンが分泌されます。そのため、愛情 ホルモンや幸せホルモンとも呼ばれます。

オキシトシンには子宮を収縮させる作用もあるため、授乳が後陣痛の痛みを強くすると考えられるのです。

子宮周辺の痛み

会陰切開や帝王切開による傷口が痛むことによって、産後に子宮が痛いと感じることがあります。

産後の2日から3日ほどは傷そのものが痛むことが多く、その後は縫合によって傷口が引っ張られるため、座ったときなどに違和感をあったり、寝返りや歩くときに痛みを感じたりすることがあるでしょう。

また、痔や便秘などによる痛みも子宮周辺に感じやすいものです。普段よりも便秘になりやすく、いきむことで痔を起こす方もいるでしょう。産後は授乳のために、体内で母乳産生に水分が使われることや、腸内の水分が足りなくなることが考えられます。

産後に起こる子宮の痛みの対策

産後に起こる子宮の痛みはつらいものですが、対策方法もいくつかあります。
ここではお腹周りを温めることやマッサージ、体操をすること、ふだんから栄養バランスの良い食事をしておくことなどについて説明します。

静養する

産後の1カ月間はしっかりと休むことを優先しましょう。家事や育児などで休みにくいと感じる気持ちもあるかと思いますが、産後の無理が強くなり精神面や身体面の不調につながることもあります。

産後の6週間から8週間は産褥期といって、妊娠や分娩により変化した体が、妊娠前に戻る期間があり、この時期は体を回復させる期間にあたります。

産後は数時間おきに授乳で起きなければいけない状態でもあるため、まとまった睡眠時間がとれず、子宮の痛みだけでなく頭痛や腰痛などで不調を感じやすい方も多い傾向です。

意識的に休むということを念頭において過ごして、できるだけ楽にしておきましょう。また、パートナーをはじめとするご家族に協力してもらうことも重要です。

お腹周りを温める

後陣痛がつらいときには冷えに注意が必要です。お腹が冷えることによって、痛みを感じやすくなることがあります。後陣痛による痛みを強く感じる場合は、腹巻きやカイロを使って、夏場でもお腹が出る格好は避けておきましょう。

産後の1カ月検診などで問題がないと判断された方は、湯船に浸かって、お腹周りを温めることも効果的です。

マッサージをする

痛みを感じる場所を優しくマッサージすることで痛みが和らぐことがあります。
強すぎるマッサージは逆効果になりますので、自分が心地良いと感じるくらいか、それよりも優しくしましょう。

また、痛いところに手を当てるだけでも痛みが和らぐという説もあります。
手を当てることによって、弱い痛覚よりも強い圧触覚の刺激を脳が感知することにより、結果的に痛みが和らぐと考えられています。

好きなことをして気を紛らわせる

好きな映画を観たり音楽を聴いたりすると、気が紛れて痛みを忘れることができる場合があります。

育児中は常に気を張っている方が多いかと思いますので、家事や育児をパートナーやご家族に任せたり、赤ちゃんが寝ていたりする間などを狙って、リラックスすることが大切です。

産褥体操をする

産褥体操は、産後でもすぐにできる軽い運動のことです。体の自然回復を促したり、体型を少しずつ戻したりするために役立ちます。

小さな負荷でできることといえば、まずは胸式呼吸と腹式呼吸です。また、仰向けに寝たまま足首を大きく回してふくらはぎをほぐす体操や、肩を大きく回すストレッチなどもおすすめです。いずれも無理のない範囲で、気になる方は産院の先生にもやり方を聞いてみてくださいね。

栄養バランスの良い食事をとる

体を回復させるために、栄養バランスの良い食事をとることが大切です。

育児が始まると十分な睡眠がとれず、思うように休息ができなくなるため、食事では体を回復させやすいものを意識的に食べると良いでしょう。

おすすめの栄養素は、タンパク質・カルシウム・鉄分・葉酸・DHA/EPAなどです。
タンパク質は卵や肉類から、カルシウムはチーズやヨーグルトなどの乳製品からとることができます。

魚はタンパク質だけでなくDHAやEPAなども効率的に摂取することができます。
鉄分はほうれん草・レバー・ひじきなど、お母さんの貧血予防や赤ちゃんの成長に役立つ葉酸はほうれん草・ブロッコリー・いちご・バナナ・納豆などから摂取可能です。

反対に避けておきたい食品は糖質や脂質が多すぎる食品やインスタント食品です。栄養が偏り安くなるため、注意が必要です。

ふだんからとりにくい栄養素はサプリメントを活用することも良いですが、過剰摂取などを避けるため担当医に相談してから使用を開始しましょう。

体の負担になることは避ける

産後は体が元の状態に戻り始めている時期なので、体の負担になることは避けておきたいものです。

具体的には水仕事、スマホやPCを長時間見るなどの眼精疲労につながること、長距離や長時間の外出、激しい運動や過度なダイエット、重いものを持つことや長時間の立ち仕事、喫煙や飲酒、カフェインのとり過ぎなどに注意が必要です。

また、産後1カ月以内は性行為や湯船に浸かることも体の負担になる可能性があります。1カ月健診の後などで問題がないと判断されるまで待ちましょう。

注意が必要なとき

産後に子宮の痛みがひどすぎる場合や、悪露が続くとき、発熱がある場合などは注意が必要です。
場合によっては子宮内の感染症が疑われる場合もあるため、違和感があるときはかかりつけ医に相談することをおすすめします。

痛みがひどすぎるとき

産後の子宮の痛みは、一般的には徐々に治ることが多いものです。

もし痛みが続くようだったり、発熱や吐き気など腹部の痛み以外の症状が現れたりする場合は医療機関で診てもらいましょう。

子宮内膜症や、卵巣や卵管に炎症が起こる産褥子宮付属器炎、盲腸として知られる虫垂炎、子宮筋腫の変性、卵巣に液状成分などがたまってできる卵巣のう腫茎捻転(子宮とつながった部分が捻れること)など、何かしらの病気が隠れている場合があるかもしれません。

悪露が続くとき

悪露の状態によっては注意が必要な場合があります。

一般的には1カ月ほどで落ち着く悪露ですが、それ以上続く場合には子宮復古不全である可能性などがあります。

悪露の量が多い、または少ない、鮮血が続く、臭いが強い、腹痛を伴う場合などはかかりつけの先生に相談しましょう。

子宮内の感染症が疑われるとき

腹痛だけでなく、発熱・腰痛・悪臭のある悪露・悪寒・全身の倦怠感などがある場合、子宮内の感染症が疑われることもあります。

子宮の感染症には、子宮内膜に感染が起こる子宮内膜炎、子宮の筋層に感染が起こる子宮筋層炎、子宮の周辺に感染が起こる子宮傍結合組織炎(骨盤内炎症性疾患)があります。

分娩後は子宮内に存在する健全な菌であっても原因となる場合があり、子宮内の感染症から別の合併症を起こすこともあるため、少しでも不安に感じる場合はかかりつけ医に相談した方が安心でしょう。

まとめ

産後すぐに感じる子宮の痛みは、一般的には後陣痛によるものだと考えられます。大きくなった子宮が元に戻ることは妊娠・出産を経験すると基本的に起こるものと考えると、心配しすぎる必要はないでしょう。

ただし、痛みの程度や悪露の状態によっては、注意が必要になるときもあります。子宮内の感染症や婦人科系の病気が隠れている可能性もゼロではないため、子宮の痛み以外に症状があるときや不安を感じるときは診察を受けるようにしましょう。

産後すぐは育児や家事もあって大変な時期かと思いますが、周囲のサポートを借りて、安全に過ごしてくださいね。

記事監修

阿部一也先生

日本産科婦人科学会専門医

プロフィール

2009年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2009年板橋中央総合病院初期研修医。2011年同院産婦人科入局。日本産科婦人科学会専門医として、妊婦健診はもちろんのこと、分娩や産まれたばかりの新生児、切迫流早産の管理などにも対応。産婦人科領域においての不安、心配や疑問に的確にアドバイスできるよう、記事の監修や執筆にもあたっている。