1. HOME
  2. 記事一覧
  3. 【出産後の尾てい骨】痛みの原因や対策を説明

【出産後の尾てい骨】痛みの原因や対策を説明

2024.02.01

記事監修

島袋朋乃先生

日本産科婦人科学会専門医・日本医師会認定産業医
日本産科婦人科内視鏡学会・日本生殖医学会所属

座る時だけでなく、横になるときにも気になる尾てい骨の痛み。

産後は骨盤周辺や座り方の変化によって、尾てい骨の痛みに悩まされる方が少なくありません。いつまで続くのか気になる方も多いのではないでしょうか。

ここでは産後の尾てい骨に悩まされている方に向けて、その特徴や原因、対処法などについて説明します。

産後に起こる尾てい骨の痛みの特徴

尾てい骨は、人間が猿だった頃に持っていた尻尾の名残だと言われています。 その後、進化の過程で尻尾自体は退化していても、筋肉や関節、感覚神経などは残っており、産後だけでなく生理のときなども尾てい骨に痛みや違和感を覚えることがあります。

具体的には、産後は以下のような動作によって尾てい骨が痛む方がいるようです。
「仰向けで寝ていると痛くなる」
「寝返りをするときに腰を浮かすと痛い」
「授乳時に骨盤を丸めて座ると痛い」
「腹筋で起き上がろうとするときや座った状態から立ち上がるときに痛い」

出産直後から痛む方もいれば、出産から数カ月して尾てい骨が痛み始める方もいます。
産後2カ月から3カ月ほどで尾てい骨の痛みが徐々に和らいでいく方が多い傾向ですが、期間や痛みの感じ方には個人差があるでしょう。

産後に起こる尾てい骨の痛みの原因

産後の尾てい骨の痛みはさまざまな要因によって引き起こされるものです。ここではホルモン分泌や骨盤など出産に伴う体内からの変化や、産後の生活習慣に由来する姿勢やストレス、体型の変化などに着目していきます。

ホルモン分泌の変化

お母さんの身体は妊娠中から産後にかけて、骨盤周辺の靭帯や関節などを緩めることで赤ちゃんが産道を通りやすくするホルモン「リラキシン」の分泌によって骨盤のつなぎ目や全身の関節が緩くなります。

この作用により産後は尾てい骨周辺の組織も柔らかくなり、関節に負担がかかりやすく、かつ痛みが出やすい時期とも言えるのです。

妊娠に伴って体重が増加すると、リラキシンの放出に加えて尾てい骨に負荷がかかりやすくなって痛みを感じることも考えられます。

また、産後は育児による体への負担がかかり、尾てい骨の痛みが回復しにくくなることも考えられるでしょう。

骨盤の変化

妊娠や出産によって体が大きく変化し、結果としてさまざまな部位に痛みを感じるようになる方もいます。出産によって緩んだ骨盤の結合組織や骨盤底筋が回復するのには、個人差があり、時間もかかります。その間は姿勢も悪くなりやすく、尾てい骨にストレスがかかって痛みにつながるかもしれません。

丸まった姿勢で座ること

猫背のように背中が丸くなった状態で座っていると尾てい骨に負荷がかかりやすくなります。育児が始まると、授乳などによって背中が丸くなることが多くなります。骨盤が傾いた状態で長時間いると尾てい骨が床に当たってしまうので、産後の姿勢の変化が尾てい骨の痛みの原因となる場合があるのです。

姿勢は一度クセになると治しにくくなり、足腰の慢性的な痛みにもつながりやすくなります。姿勢の変化により骨盤周辺の筋肉が緊張すると痛みの原因になるでしょう。

ストレス

産後の育児などによってストレスを感じると、それが自律神経のバランスに影響する場合があります。自律神経のうち、交感神経が働きすぎると体が緊張した状態 になってしまい、尾てい骨周辺にもストレスがかかりやすくなるかもしれません。

体型の変化

尾てい骨は動物の体だと尻尾にあたる部分であるため、体全体のバランスを取ることとも関係していると考えられています。

産後は授乳が始まったり、育児によるストレスで過食気味になったりと体重や体型が変化する時期であるため、体のバランスを崩すような体重の増加があると、尾てい骨にも負荷がかかり、痛みを生じることが考えられるのです。

人間の体は骨格に適した筋量や体脂肪の比率があるため、適切な量以上に筋肉や脂肪がつくと、尾てい骨に痛みを感じることにつながると考えられます。

産後に起こる尾てい骨の痛みの対処法

続いて、産後の尾てい骨の痛みに対する対処法について説明します。座り方の工夫やストレッチ、クッションの使用、湯船で筋肉の緊張をほぐすことなどが対処法になります。

座り方を変える

丸まった姿勢になると尾てい骨に体重が集中しやすくなり、痛みが強くなりやすいと言われています。日頃から背筋を正して座ることが大切です。椅子に座る場合は、お尻の位置が膝よりも高い位置になるように椅子を選んだり、椅子の高さを調整したりすると良いでしょう。

ポイントは、意識的に上半身を立てることや頭が前に出過ぎないこと、椅子に座るときはひじの角度と肘の角度が90度に曲がるようにすることです。

スマホを触る時も前かがみにならないように気をつけておくと良いでしょう。

ストレッチをする

ストレッチをすることにより姿勢が良くなり、尾てい骨への負荷が軽減されます。血行が良くなることで痛みの回復も早くなることが期待できるでしょう。仰向けになって両膝を曲げたら右足のくるぶしを左足の膝の上にかけ、左足の太ももを体に寄せるように引き上げると、お尻のストレッチができます。

また、骨盤を締める運動によっても尾てい骨のケアをすることが可能です。うつ伏せになって内股で寝て、お尻の穴に力を入れ、つま先と太ももを外方向にひねった状態を10秒キープすることでストレッチができます。

産後のお腹はどうしても皮膚や筋肉がたるんでいるため、うつ伏せになってこのストレッチをすることで本来の腹直筋(お腹の前面にある筋肉)の形に引き締めることが期待できます。
胸が張っていない時や、子宮が回復した時期に、無理のない範囲で試してみてくださいね。

クッションを使用する

クッションを使用して尾てい骨の負荷を和らげることも対処法になります。一般的な柔らかいクッションや、丸くて中央に穴が空いたドーナツ型のクッションなどが使いやすいかと思います。

また、硬い椅子などの使用を避けることも大切です。木製や金属製の椅子は硬い場合が多いため、クッションを使うか柔らかい材質の椅子を選ぶようにしましょう。

温かい湯に浸かる

温かい湯船に浸かると筋肉の緊張をほぐせるので、痛みの軽減につながります。湯船に浸かった後にストレッチをしたり、家族に優しくマッサージしてもらったりすると、より効果的でしょう。

ただし、お風呂の後は滑って転んでしまう方もおられますので、転んで尾てい骨を打たないように注意が必要です。

整形外科を受診する

尾てい骨の痛みに悩まされる方は、整形外科で診てもらえると安心です。もし可能であれば、受診の際には1日にどれくらいの頻度で痛むのか、どんなときに痛みを感じるのかなど、痛みの特徴についてメモをしておくと良いでしょう。

意外な原因が隠れている場合もありますので、排尿障害や痺れなど痛み以外の症状があれば、それらも伝えられるようにしておきましょう。

注意が必要なとき

尾てい骨の痛みとはいえ、注意が必要な場合もあります。ここでは産後うつとの関係と、頻度のあまり高くない馬尾腫瘍 、仙骨脊索腫 、尾骨滑液包炎 の4つについて説明します。

産後うつ

産後うつは出産から1カ月くらい経過した頃 に発症しやすいものです。主な症状として、抑うつ気分や不安、不眠など、精神面のダメージが見られます。

産後うつの似た症状にマタニティーブルーズがありますが、こちらは産後のホルモンバランスの変化により産後数日などの短期間で症状が消失する傾向にあります。

そのため、産後の数週間や数カ月くらいに起こる気持ちの沈みなどは産後うつの可能性があると覚えておくと良いでしょう。

馬尾腫瘍(ばびしゅよう)

脊髄の抹消部分は馬の尻尾のように枝分かれすることから、馬尾と呼ばれています。馬尾腫瘍とは、尾てい骨周辺にあたる馬尾に腫瘍ができる脊髄腫瘍の一種です。

初期段階では無症状ですが、腫瘍が大きくなるにつれて神経が圧迫され痛みを感じることがあります。尾てい骨の痛みや痺れ、歩行障害や排尿障害を伴う場合は注意が必要です。夜間に痛みを感じる場合や、下半身に感覚異常を感じる場合もあるでしょう。

軽微な症状であれば経過を観察するだけで症状が軽快することもありますが、手術により腫瘍を摘出することがあります。

仙骨脊索腫(せんこつせきさくしゅ)

仙骨とは骨盤の中央にある骨で、背骨の一番下にあたる部位であり、悪性腫瘍の仙骨脊索腫は、尾てい骨周辺の神経を巻き込んで進行すると痛みを感じる場合があります。基本的な治療は手術による摘出ですが、発症頻度はそう高くない疾患です。

ただし、下半身に痺れを感じたり、排便障害などを感じたりする場合は注意を払いましょう。

尾骨滑液包炎(びこつかつえきほうえん)

滑液包とは関節の近くにある小さな袋 のことであり、関節がスムーズに動くためにクッションのような役割を担っています。

同じ運動を繰り返し、その負荷を尾てい骨の周辺にある滑液包に与えられると、余分な体液が溜まることによって炎症を起こし、尾骨滑液包炎になる場合もあります。

そのため、長時間にわたって同じ姿勢で座り続けることが尾骨滑液包炎の原因につながることあり、お尻の脂肪や筋肉が薄い方が発症しやすい傾向です。予防策としてドーナツ型のクッションなどを使い、尾てい骨に刺激を与えないことが大切といわれています。

まとめ

ホルモン分泌の変化や姿勢の変化などから、産後は尾てい骨にも負荷がかかりやすいものです。対策には、姿勢の改善やクッションの使用によって尾てい骨に負荷をかけないこと、ストレッチや湯船に浸かるなどしてお尻付近の筋肉の緊張をほぐすことが大切です。

尾てい骨は背骨の一番下に位置することから、神経との関連もある部位です。普段から正しい姿勢を意識する、痛みが強い間は無理をせず休息をとる、痛みが軽減されるようクッションを活用するなどして、痛みに悩まされないように過ごしてくださいね。

記事監修

島袋朋乃先生

日本産科婦人科学会専門医・日本医師会認定産業医
日本産科婦人科内視鏡学会・日本生殖医学会所属

プロフィール

平成28年旭川医科大学医学部を卒業後、函館五稜郭病院、釧路赤十字病院などでの勤務を経て、総合病院やクリニックで産科・婦人科・生殖医療に携わっている。